忘れないように貼っておくだけ

計画段階でも可能 区画整理取り消し請求 最高裁、42年ぶり判例変更
9月11日8時1分配信 産経新聞


 土地区画整理事業がどの段階まで進んだら裁判で取り消しを求めることができるかが争点になった訴訟の上告審判決が10日、最高裁大法廷(裁判長・島田仁郎(にろう)長官)であった。大法廷は、事業計画決定の段階でも取り消しを請求できるとの初判断を示し、この段階は取り消し訴訟の対象にならないとした昭和41年の最高裁判例を42年ぶりに変更した。この判決により、土地区画整理事業をめぐり住民が裁判で争う機会が拡大する。

 問題になったのは、浜松市が平成15年に事業計画決定した遠州鉄道上島駅周辺の区画整理事業。住民が事業計画の取り消しを求めていたが、1審静岡地裁、2審東京高裁はともに昭和41年の判例に従い、訴えを却下していた。

 大法廷は1、2審判決を破棄し、審理を静岡地裁に差し戻した。同地裁で事業計画が違法かどうかについて審理されることになる。

 行政事件訴訟法では、取り消し訴訟を起こせる要件として、行政の行為が「行政処分」に当たることを規定。土地区画整理事業は、都市計画決定の後、事業計画を決め、施行区域内の住民の土地を代替地と交換するなどして進められる。

 昭和41年の判例は「特定の個人に向けられたものではなく青写真に過ぎない」として、事業計画決定を行政処分ではないと判断。これ以後、代替地との交換以降を訴訟の対象とするのが一般的になっていた。

 大法廷は、事業計画決定により、住民が必ず土地交換をさせられる立場に置かれるとして、「住民個人の法的地位に直接的な影響が生じる」と判断した。

 また、土地交換段階で事業の違法性が認められても救済されない可能性が高いことを指摘し、「権利救済を図る観点からも、事業計画決定を行政処分とみるのが相当」と結論づけた。

                   ◇

 ■行政処分の範囲 広く認める

 10日の最高裁大法廷判決は、行政訴訟で住民が門前払いされることを避ける道筋を、また一つつけた。判決は、ほかのまちづくりをめぐる訴訟でも、議論を生む土台になりそうだ。

 行政訴訟は、土地区画整理や都市再開発など、行政主導のまちづくりに関して住民が異議を唱えられる機会だ。ただ、行政訴訟を起こすには大きな関門が2つある。

 1つは訴えを起こす資格があるかどうか。もう1つは行政の計画決定が「行政処分」に当たるかどうかだ。両方がそろわないと、提訴しても違法性の審理はされずに却下される。最高裁の統計によれば、平成19年の行政訴訟の却下率は約15%にも上る。

 訴える資格の有無については、16年の行政事件訴訟法改正で基準が緩やかになり、最高裁は17年に「小田急線高架訴訟」で、門戸を拡大する判決を言い渡したが、後者は手つかずのままだった。今回の大法廷判決は、行政訴訟の門戸拡大の流れにそって、行政処分の範囲をより広く認めた。

 一方で、行政処分の範囲を土地区画整理事業など具体的な事業の前提になる都市計画決定の段階まで拡大することを求める声もある。その方が、住民がより早く、司法を通じて行政をチェックできるようになるためだ。都市計画決定行政処分ではないとする判例があるが、今回の大法廷判決により、この点の議論も活発化しそうだ。(半田泰)

                   ◇

【用語解説】土地区画整理事業

 地方自治体や地権者らでつくる組合が主体となり、一定区域内の雑然とした土地利用を仕切り直して道路や公園などの公共施設を整備し、宅地も利用しやすいように代替地と交換。公共施設用地などを確保するため、地権者から少しずつ土地の提供を受ける。土地自体の価値も高まり、市街地整備事業として各地で活用されている。通常(1)施行区域などの都市計画決定(2)設計概要を定めた事業計画決定(3)換地計画の作成(4)仮換地の指定(5)住宅の移転や公共施設建設の工事(6)換地−の手順で進められる。国土交通省によると施行中の土地区画整理事業は平成18年度末で約1400地区。