権利侵害され突き倒す…正当防衛認め無罪 最高裁

7月16日

 建物に対する権利や、業務、名誉が侵害されることへの反撃が正当防衛として認められるかどうかが争われた刑事裁判の上告審判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日、傷害罪に問われた広島市の不動産業の女性(76)について正当防衛を認め、1、2審の有罪判決を破棄し逆転無罪を言い渡した。無罪が確定する。生命・身体に対する危害がないケースで、生命・身体への反撃が正当防衛と認められるのは珍しい。

 女性は06年12月、不動産会社社員の50代男性の胸を両手で突いて転倒させ、後頭部に1週間のけがをさせたとして起訴された。男性とは以前から、女性の自宅兼事務所の共有持ち分権を巡ってもめており、当日は男性が「立ち入り禁止」の看板を取り付けようとしてトラブルになった。

 1審・広島地裁は傷害罪で罰金15万円とし、2審・広島高裁は暴行罪に当たるとして科料9900円を言い渡した。弁護側は「正当防衛が成立する」と無罪を主張し上告した。

 小法廷は(1)男性の行為が正当防衛の要件となる「差し迫った不正の侵害」に当たるか(2)女性の反撃が許される程度か−−を判断。看板設置は違法行為で嫌がらせにあたり、女性の業務や名誉を侵害しており、正当防衛の要件に当たると認定。身長差26センチと体格に差があり、男性が大げさに後ろに下がった可能性もあるとして「女性の暴行の程度は軽微だった」と結論づけた。

同小法廷は(1)立ち入り禁止の看板を取り付けられることは、建物の共有持ち分権などの侵害に当たる(2)本件以前にも嫌がらせが繰り返された(3)男性が大げさに被害申告した疑いがある−と指摘。「女性の行為は防衛手段として相当性がある」と判断した。